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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8261号 判決 1974年4月30日

原告

ドン・マイヤー・インターナショナル・インク

右代表者

ドン・マイヤー

右訴訟代理人

福田彊

外三名

被告

株式会社太平洋テレビ

右代表者

清水昭

右訴訟代理人

馬塲東作

外二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告は原告に対し金一、六〇〇万円及びうち金八〇〇万円につき昭和四三年七月一日から、うち金八〇〇万円につき同年九月一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二  請求原因

一  原告はテレビ用映画フィルムの製作、輸出販売等を業とするものであり、被告はテレビ番組の製作、提供、販売代理を業とするものである。

二  原告は、昭和四〇年一二月頃までNBC、インターナショナル、リミテット(以下「NBC」という)を代理人として原告製作にかかるテレビ用映画「野生の王国」のフィルムの日本国内の放送局への売込みをしていたが、同年一二月二四日以来被告がその売込みをすることとなり、被告との間で左のとおり契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。

(一)  被告の売込みの結果、原告と放送局との間に、原告が放送局に対し右フィルムを賃貸しその放映を認めることを内容とする契約(以下「放映契約」という)が成立した場合には、原告は被告に対しフィルム賃貸料の一〇パーセントをコミッションとして支払う。

(二)  右コミッションは原告がフィルム賃貸料受領後三〇日以内に支払う。

(三)  被告は放映契約を成立させるにあたつては必ず事前に原告の承諾を得るものとする。

(四)  いかなる契約も原告と各放送局との間において締結されるものであり、契約書におけるフィルム使用許諾者は原告、使用被許諾者は使用放送局たるべきものとする。

三  本件委任契約の内容から明らかなとおり、被告は放映契約締結の媒介をするに過ぎず、右契約締結の代理権を有するものではない。

四(一)  被告は、昭和四二年一二月三〇日、財団法人日本科学技術振興団(通称東京一二チャンネル、以下「一二チャンネル」という。)との間で、原告の代理人として、「一二チャンネルは三〇分カラー映画シリーズ『野生の王国』(一九六七年――一九六八年)一六本(以下「本件フィルム」という。)を一二チャンネルのサービスエリアにおいて各一本一回宛放送し、その使用料として二万七、二〇〇ドル(九七九万二、〇〇〇円)を支払う」旨の本件フィルムの放映契約を締結した。右契約は原告の事前の承諾なくなされたものであつた。

(二)  原告は、被告に対し昭和四三年二月一四日一二チャンネルとの間で右フィルムの放映契約を締結することを承認し被告に対し本件フィルムを送付した。かくて、被告は本件フィルムを占有するに至つた。

(三)  原告が、一二チャンネルと契約することにしたのは、被告が原告に対し一二チャンネルに対する本件フィルムの販売につき本件委任契約によるコミッションを請求しないことを約したからである。

五  ところが、被告は昭和四三年五月末日一二チャンネル及び株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)との間で原告の承諾なく代理人として左の契約(以下「本件三面契約」という)を締結した。

(一)  一二チャンネルは前記放映契約による本件フィルムの放映権を行使せずこれを毎日放送に譲渡する。

(二)  放映権の内容は本件フィルムのほか一六ミリマグネチックフィルムからなる日本語版サウンドラックを含むものとし、その放映の地域は毎日放送のサービスエリヤである東京、大阪、名古屋、北九州とする。

(三)  毎日放送は昭和四三年一二月末日までに放映を終了するものとする。

(四)  放映回数は各一回限りとし、毎週一本を放映する。

(五)  放映料金はフィルム一本当り金一〇〇万円合計金一、六〇〇万円とし、毎日放送は昭和四三年六月末日金八〇〇万円、同年八月末日金八〇〇万円を支払うものとする。

(六)  日本語版製作については被告及び毎日放送が協議の上行なうものとする。

(七)  本契約は被告、一二チャンネル、毎日放送とも第三者にもらしてはならない。

六  かくて、本件フィルムは毎日放送により昭和四三年七月四日より同年一〇月一七日まで毎週一回ずつ合計一六回にわたり放映され、被告は毎日放送より同年六月二九日金八〇〇万円、同年八月三一日金八〇三万五、〇〇〇円を受領した。

七  以上述べたとおり、被告は前記四(二)記載のように原告所有の本件フィルムの占有を取得したのを奇貨とし、自己にそのような権限がないことを知りながら、前記五記載のように原告に無断で本件三面契約を締結し毎日放送に本件フィルムを交付して放映させた。この結果原告は毎日放送の放映期間本件フィルムを利用することができず、このため、日本における本件フィルムの第一回放映により取得すべき金一、六〇〇万円相当の利益を失つた。

八  また、被告の前記四記載の金員の受領は法律上原因のなく原告の財産である本件フィルムによる利得であり、原告は本件フィルムを利用できないことにより損失を蒙つた。しかも、被告は本件フィルムを原告の承諾なく利用できる権限のないことを知つた。

九  よつて、原告は被告に対し不法行為による損害賠償又は悪意の不当利得返還として金一、六〇〇万円及びうち金八〇〇万円については受領の日の翌日である昭和四三年七月一日から、うち金八〇〇万円については受領の日の翌日である同年九月一日から各完済まで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する答弁及び抗弁

一  請求原因一の事実は認める。なお、被告は主として外国テレビ映画会社の代理店業をしている。同二の事実のうち(三)の事実は否認し、その余の事実は認める。同三の事実は否認する。同四(一)の事実は認める。但し放映地域は一二チャンネルのサービスエリヤに限られなかつた。同(二)の事実は認める。同(三)の事実は否認する。同五及び六の事実は認める。同七及び八の事実は否認する。

二  被告は本件委任契約締結の際原告から日本国内放送局の選択を一任され、放送局との間の放映契約締結につき代理権を授与されていた。その際の契約内容は次のとおりであつた。

(一)  被告は原告の代理人として原告が製作した「野生の王国」と題するテレビ用映画につきわが国の放送局との間で放映契約を締結し、代金を受領しこれを送金する権限を有する。

(二)  テレビ用映画のプリント代、日本語版サウンドテープの製作費用は被告又は放送局の負担とする。

(三)  被告は放映契約が成立したときは放送局から受領した金員のうちから予め当事者間でシリーズ(一シリーズは一六本又は一七本)ごとに約定された金員を支払う。

(四)  放映契約は、特定の放送局及び放映地域を特定する方式ではなく、全日本一回放映何ドルという形式によりなされるものとする。但しわが国の民間放送局は全国にわたるネットワークを有しないため、全日本を一回で全放送局より同時に放映することは不可能なので、これを分割し放送局を選定し放映を許諾するというわが国の慣習に従うものとする。

三  欧米のテレビ映画製作者はその製作映画を日本国内で放映することを許諾にあたり、日本の放送界の慣習、実情に対する知識の欠如、日本語版製作の必要、外貨送金による規制等の関係から、被告のような外国テレビ映画販売の代理店業者に自己に代理して放送局との間で放映契約を締結する権限を与えるのが通例である。本件の場合もその例外ではなく、被告は当初原告の日本における総代理店で代理権を有したNBCの代理人として「野生の王国」の放映契約を締結していたが、原告とNBC間の契約終了後被告が原告の代理人となつたのである。

四  「野生の王国」シリーズは昭和四二年まで毎日放送が放映していたが、同年一二月に至り、翌年は放映しない模様であつたので、被告は他の放送局をさがすことが委任の趣旨にも合致すると考え、一二チャンネルとの間で放映契約を締結したのである。しかるに、その後、毎日放送が放映しないということが被告の誤解であることがわかつたので、被告は、同一番組は引続き同一局が放映するとの我国の放送界の慣習にしたがい、三者協議の上本件三面契約を締結したのである。放映局が毎日放送にかわつてもフィルム使用料に変更がないからなんら原告に不利益をもたらすものではなく、その後の年度においても毎日放送が原告の承諾の下に放映を続けている。従つて、被告が毎日放送との間で本件三面契約を締結し、同社に放映させたとしても、原被告間の本件委任契約の趣旨に反するものではない。

五  仮に原告の主張が理由があるとしても被告は原告に対し次のとおり反対債権を有するので、これと本訴債権とを対当額で相殺する。被告は 原告との本件委任契約に基づきいずれも毎日放送との間で昭和四〇年一二月第一回分一七本につき代金二万二、九五〇ドル、昭和四二年五月第二回分一六本につき代金二万四、〇〇〇ドル、昭和四三年二月第三回分一六本につき料金二万九、六〇〇ドルとして放映契約を締結し、右第一、二回分の料金は原告に送金した。右第一回の契約につき原告は契約金額の一〇パーセントのコミッションを支払うことを約しながら履行していない。また、第二、第三回分の契約についてはコミッションの約定はなかつたが、原告が被告と同様の契約関係にあつたNBCとの契約ではコミッションが四〇パーセントと約されていたから、被告も同じ割合によるコミッションの請求権を有する。従つて、原告が被告に対し支払うべきコミッションは第一回分につき二二九五ドル、第二回分につき九六〇〇ドル、第三回分につき一一、八〇〇ドル合計二万三、七三五ドルであるから、これと本訴債権とを対当額で相殺する。

第四  被告の主張に対する原告の認否

一  第三の二の事実のうち、被告が相手方放送局から代金を取得しこれを原告に送金する権限を有したことは認めるが、その余の事実は否認する、同三ないし五の事実は否認する。

二  被告が原告に対し契約締結の代理権を与えず事前の承認を必要とした趣旨は、放映契約が遠隔者間で行なわれる国際契約であり、相手方放送局の著名性、放映可能範囲等を考慮し、契約内容の妥当性を確保することを必要としたことにあつた。

第五  証拠関係<略>

理由

一原告及び被告の営業内容に関する請求原因一の事実、テレビ映画フィルム「野生の王国」の日本国内における販売委託についての原被告間の本件委託契約の締結及び内容等に関する同二の事実(但し(三)の事実を除く)は当事者間に争いがない。

二そこで、被告が「野生の王国」を日本国内で販売するにあたつて原告を代理して相手方放送局と放映契約を締結する権限があつたかどうかを検討する。

<証拠略>によれば、原告は昭和三五年テレビ映画「野生の王国」製作のためドン・マイヤー・プロダクションズ・インクなる名称で設立された会社で(昭和四五年九月一八日ドン・マイヤー・インターナショナル・インクと名称が変更された)、設立後昭和四二年二月まで請求原因二記載のとおりN・B・Cに原告の代理人として「野生の王国」の放映に関し世界各国の放送局との間で放映契約を締結する権限を与えていたが、それ以後はNBCとの契約を解消し、「野生の王国」を世界的に配給するために特に新たに設立したドン・マイヤー・プロダクションズ・インターナショナル・リミテッドに右代理権を授与し、世界各国の放送局と放映契約を締結させていたこと、被告は昭和三九年からNBCから「野生の王国」のフィルムの供給を受け毎日放送との間で放映に関する交渉をなし事実上の合意に達した後、これをNBCに伝え最終的には、原告の代理人であるNBCが右合意内容を承認し毎日放送との間で契約書を交わすことによつて放映契約が締結されていたこと、昭和四〇年一二月一一日被告は原告に対し改めて「野生の王国」の日本国内の販売代理人となることを申出たが、その際「セールスは貴社(原告を指す)の事前の承認に基づいてなされ、全契約書は直接貴社と放送局との間にとりかわすものと致します。」と述べ、同月二四日原告が右申出を承諾し、本件委任契約が締結されるに至つたものであること、被告が同年一二月三〇日一二チャンネルとの間で本件フィルムにつき請求原因三(一)記載の放映契約を締結した後(放映地域の点を除き右契約締結の事実は当事者間に争いがない)、原告に対し昭和四三年二月七日、九日、一二日の三回にわたり、右契約を承認することを求めていること、これに対し原告は同月一四日一二チャンネルと放映契約を締結することを承認し(右承認の事実は当事者間に争いがない)、ドン・マイヤー・プロダクション・インターナショナル・リミテッドをフィルム賃貸人とする契約書を同封し一二チャンネルの署名を求めたところ、被告はこれに自己をフィルム賃借人として表示し署名して返送したため、原告は同年三月一九日自己の利益を守るため原告と放送局が直接契約書を交わすことにより放映契約を締結すべきことを改めて強調した書面を送つたところ、被告もその趣旨を認め、かくて同年五月二〇日付をもつて原告代理人ドン・マイヤー・プロダクション・インターナショナル・リミテッドと一二チャンネルとの間で本件フィルムについての放映契約書が交わされ、原告と一二チャンネルとの間に放映契約(甲第一一号証の二)の成立を見るに至つたことが認められ、この認定に反する被告代表者本人尋問の結果は採用することができない。

以上に認定したように、原告製作にかかる「野生の王国」が被告が交渉をした日本国内の放送局から放映される際は、必ず被告が原告の事前の承認を得るものとされ、右承認後原告が自ら代理権を授与したNBC又はドン・マイヤー・プロダクション・インターナショナル・リミテッドと放送局との間で契約書が交わされていた事実に徴すれば、被告は原告と日本国内の放送局との間の放映契約の成立を媒介するに過ぎず、右契約締結の代理権まで有したものと認めることはできない。

請求原因五記載のように被告、一二チャンネル及び毎日放送との間で原告の承認を得ることなく本件フィルム放映に関し三面契約(甲第一九号証)が締結され、請求原因六記載のように、右契約に基づき本件フィルムが毎日放送から放映され、被告が毎日放送から合計金一、六〇三万五、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いないが、既に述べたとおり、被告が単に本件フィルムの放映契約成立の媒介をなすに過ぎないものである以上、原告の追認がない限り本件三面契約が原告に対し効力を及ぼさないことは明らかであり、本件三面契約締結は被告の権限外のものであるといわざるを得ない。

三次に、被告の右権限外の行為が原告に損害を与え又は損失を蒙らせたかどうかを検討する。

(一)  先ず、原告は一二チャンネルとの間では前記のとおり昭和四三年五月二〇日付をもつて甲第一一号証の二の放映契約を締結したのであるから、一二チャンネルに対し右契約上の権利として二万七、二〇〇ドル(一本当り一、七〇〇ドル、一六巻分)を請求することができる関係にある。

もつとも、同年六月二九日付の本件三面契約により被告が保管していた本件フィルムは一二チャンネルには交付されず毎日放送に交付された結果、一二チャンネルは本件フィルムを放映しなかつたのであるから、結局、原告との間で成立した甲第一一号証の二の放映契約によるフィルム賃借人としての権利を行使していないことも明らかである。しかし、(1)本件三面契約が原告に無断で締結され原告にその効力を及ぼさない以上、一二チャンネルが本件フィルムを放映できなかつたことにつき原告には有責事由は存しない。(2)次に<証拠略>によれば、本件三面契約が解約しているのは、被告と一二チャンネル間の昭和四二年一二月三〇日付放映契約(成立に争いのない甲第二〇号証)であることが明らかであるから(甲第一九号証の一条)、これによつて原告と一二チャンネルとの間で効力を有する甲第一一号証の二の本件フィルムの放映契約を解約しているとは認めがたい。従つて、一二チャンネルが甲第一一号証の二の放映契約を存続させたまま毎日放送が本件フィルムを放映することを認めたことは、自らの有責事由により本件フィルム賃借人としての権利を行使しなかつたことに帰する。(3)右(1)及び(2)に述べたところによれば、本件フィルム使用についての債務者たる原告は反対給付である一二チャンネルに対する賃貸料請求権を失わないものというべきである。

仮に、原告が被告の求めにより被告と一二チャンネル間の昭和四二年一二月二六日付放映契約(甲第二〇号証)を締結したことを承認したことから、右甲第二〇号証を解約している本件三面契約により原告と一二チャンネル間の放映契約も解約されたと解する余地があるとしても、一二チャンネルは被告が解約の権限を有しないことを知つていたか、少くとも過失によつて知らなかつたものということができる。すなわち、一二チャンネルが被告と交わした甲第二〇号証の契約書とドン・マイヤー・プロダクション・インターナショナル・リミテッドと交した甲第一一号証の二の契約書の内容は明らかに異つており、昭和四二年一二月三〇日に交わされた前者の契約は「被告が日本国内で販売する本件フィルムの放映権を譲渡する。」ことを内容とするのに対し、その後である昭和四三年五月二〇日に交わされた後者の契約は「本件フィルムのデイトリビューターであるドン・マイヤー・プロダクション・インターナショナル・リミテッドは一二チャンネルに本件フィルムの放映権を与える。」「一二チャンネルは本件フィルムを転貸、譲渡する権利を有しない。」等を内容としており、もし、被告が原告のため代理権又は本件フィルムの放映権を有していたのであれば後者のごとき契約を締結することは不要であるはずなのに、改めて、一二チャンネルが同一フィルムの使用につき後者の契約を締結したということは、少くとも右契約が締結された昭和四三年五月二〇日以後の時点においては、一二チャンネルは被告が本件フィルムの放映契約に関する締結解約等の権限を有しないことを知つていたか、少くとも過失により知らなかつたものといつて差支えない。従つて、前記のように本件三面契約につき仮定的解釈をするとしても、一二チャンネルが自らの有責事由により本件フィルムの賃借人としての権利を行使しなかつたものということができるから、原告が反対給付たる賃貸料請求権を有することに変りはない。

(二)  ところで、原告の主張する損害又は損失とは、被告が権限なく本件フィルムを毎日放送に使用せしめたため、原告が本件フィルムの日本国内における第一回放映により得べかりし利益を失つたことを指すのであるが、右のように、原告が一二チャンネルに対し、なお甲第一一号証の二の契約上のフィルム賃貸料請求権を有し、かつそれが相当額のものと認められるならば、原告が製作者として取得すべき本件フィルムの第一回放映による利益はなんら失われていないから、原告に損害又は損失ありということはできない。

(三)  そこで、一二チャンネルによるフィルム賃貸料の相当性について考えると<証拠略>によれば、被告と毎日放送間の契約では本件フィルムの放映料金は一巻当り金一〇〇万円(二七七七ドル)で<証拠略>により認められる原告と一二チャンネルの五月二〇日付放映契約による一巻当りフィルム賃貸料金六一万二、〇〇〇円(一、七〇〇ドル)より高額であることが認められる。しかし<証拠略>によれば、前者の放映料金一〇〇万円の中にはフィルム製作者である原告が取得すべき純然たる賃貸料のほか、被告において負担すべき日本語版吹替え費用、通関費用、運送費用等日本国内において放映するため特に必要とする諸経費も含まれており、これら諸経費は金四〇万円を下ることはないものと認められ、一方、甲第一一号証の二の放映契約によるフィルム賃貸料とは右にのべた放送局から製作者たる原告に支払わるべき純然たる賃貸料を指すものと解せられるから、右両契約を比較すると、甲第一一号証の二の放映契約による金六一万二、〇〇〇円(一、七〇〇ドル)の賃貸料は相当なものであると認められる。

四(一)  もし、原告の本訴請求を認容するとすれば、――純然たるフィルム賃貸料のほか前記諸経費まで原告が請求し得るか否かの点を別にするとしても――実質は原告が一二チャンネルと毎日放映に対するフィルム賃貸料を二重に取得することになる。そして、それは、恰も同一物を同一時期に二重に賃貸した賃貸人が双方の賃借人から賃料の受領を認めるのと結果的に等しいことになる。二重賃貸の場合であつてもいずれの契約も有効であるが、どちらか一方の賃借人に対する関係では賃貸人の賃貸義務は履行不能となり、しかもそれは通常賃貸人の責に帰すべき事由に基づくと考えられるから、賃貸人は履行不能となつた賃借人からは賃料を請求することはできない。本件では、もとより、一二チャンネルとの間では契約関係があり、毎日放送との間では契約関係がなく、両者に対する請求の関係では形式上二重賃貸とは異なるが、本訴の請求は被告が原告に無断で毎日に本件フィルムを賃貸し、その対価として金員を受領したことを理由としているのであるから、原告が一二チャンネルに対する甲第一一号証の二による契約上の請求権を有する以上、本訴請求を認容することは同一フィルムによる二重の賃貸料請求と実質的に同一であるといわなければならない。

(二)  なお、附言すると、以上のように考えると、本件フィルムにつき権限を有しない被告がその賃貸料相当額を利得することとなり一見不当な結論であるかのごとくみられるが、それは、本件三面契約の当事者、特に本件フィルムを放映しないにもかかわらず、その賃貸料を負担しなければならない一二チャンネルと毎日放送の放映計画を十分に調査をすることなく一二チャンネルに放映契約を締結させた被告との間で法的に解決すべき問題である。

五よつて、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (松野嘉貞)

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